累風庵閑日録

本と日常の徒然

『藤井礼子探偵小説選』 論創社

●『藤井礼子探偵小説選』 論創社 読了。

 上々の短編集であった。日常的にどこにでも転がっているような、卑しさ愚かさ醜さ浅ましさを、堅実な筆致で綴る。確かな人物造形、サスペンスを維持する筆運びの上手さ、そして時折仕掛けられている捻り、といった美点が際立つ。

 気に入った作品は、嫌な展開が記憶に残る「枕頭の青春」、結末がお見事な「破戒」と「姑殺し」、主人公の造形が凄まじい「誤殺」、何が起きているのかという興味が強烈な「幽鬼」、(伏字)の焼き直しかと思ったらさらに捻りが加わっている「狂気の系譜」、といったところ。

「死の配達夫」はよく整っていて、言ってしまえば型通りである。典型好きの私の好みにも合っている。いかにも二時間ドラマになりそうな、と思ったら巻末解題によると実際にドラマ化されたことがあったそうな。

 収録作中のベストは「舌禍」で、上記の良さに加えて伏線もお見事。個別に題名を挙げないが、後半のショートショートと言えそうな作品群も秀逸。捻りと切れ味で勝負しており、私の好み直撃である。