累風庵閑日録

本と日常の徒然

『灰色の部屋』 E・フィルポッツ 創元推理文庫

●『灰色の部屋』 E・フィルポッツ 創元推理文庫 読了。

 登場人物達の台詞が、やけに大仰でまどろっこしい。なにかってえと抽象的な議論を戦わせるのが面倒くさい。神だの霊だの信仰だの理性だの、そんな話に付き合ってられるかよ、という気になる。読み終えて振り返ってみると、そういった議論をも悠々と味読するのが、本書に対する望ましいアプローチなのかもしれない。残念ながら、生来せっかちな私はまどろっこしくて難渋したけれども。

 読み始めたときには、もしかしてかなり退屈な作品なのでは、という懸念があった。ところが、だ。中盤の展開がかなり意外。そして勢いを保ったままさらなる展開へ。会話がだるいのは相変わらずだけども、物語の盛り上がりはなかなかのものである。狂信的な台詞を喚きたてる某人物も、そんな造形だからこそ後の展開のインパクトに一役買っている。

 真相は、まあその辺りに着地点を設けるしかないだろうな、というもの。意外性には乏しいが、(伏字)の要素が魅力的だし、通常のミステリの型からはずれた奇天烈さもある。

●注文していた本が届いた。
『殺人七不思議』 P・アルテ 行舟文化
 特典小冊子『粘土の顔の男』が付いているのも嬉しい。