●『リュパン対ホームズ』 M・ルブラン 創元推理文庫 読了。
怪盗対名探偵という基本設定に沿って、いかにもそれらしい展開が繰り広げられる。ルブラン初めての長編だそうで、内容は複数の中編をつなぎ合わせたようなぎこちなさがあるけれども。その辺りのユルさも含めて、読み味は軽くてスピーディー。典型好きの私としては、なかなか楽しい作品であった。しっかりしたミステリやしんどい作品が続いた後の、箸休め的な読書として好適である。
出口を見張られている家屋からの人物消失という不可能興味もあるが、真相はなんとも他愛ない。そんな他愛なさも、陽性の通俗スリラーという器に盛られると素直に受け止めることができる。
リュパンに相対するイギリスの探偵は、緒戦から中盤まではリュパンにいいようにあしらわれている。けれどもちゃんと見せ場も用意されてあって、話が盛り上がるようにできている。ルブランの、娯楽小説書きとしての力量が発揮されているようだ。
上の段落であえてイギリスの探偵と書いたのは、マニアさんはとっくにご存じの通り、原書ではホームズではないからで。ここに描かれている人物は、どうにもホームズらしくない。助手のウィルソンも、ちっともワトソンらしくない。読みながら頭の中で、ホームズの名称をショルメスに変換する作業をずっとやっていた。