累風庵閑日録

本と日常の徒然

『煙で描いた肖像画』 B・S・バリンジャー 創元推理文庫

●『煙で描いた肖像画』 B・S・バリンジャー 創元推理文庫 読了。

 十年前、豪奢な生活を求めて家出したクラッシー。その十年後、偶然彼女の写真を手に入れたダニー。彼はクラッシーの写真に魅了され、今の彼女を見つけようと決意する。

 行方不明の人間を探すタイプのミステリ。だがこの作品がよくある私立探偵小説とちょいと違うのは、探究につれて次第にダニーの妄想が膨らんでゆくところ。運命に翻弄された可哀想な彼女は、清純で真面目で努力家で……

 作品の構成として、現在のダニーと十年前のクラッシーと、それぞれの物語が各章毎に交互につづられる。そこで描かれる彼女の実像は、ダニーの妄想とはまるでかけ離れたものなのだが。

 (伏字)ると、結末の方向性は薄々予想できた。そりゃあこうなるだろう、と思う。ダニーとクラッシーの人物像をしっかり味わってからこの場面にたどり着くと、十分納得がいく。ただしそこから先、物語全体の結末は予想外であった。