累風庵閑日録

本と日常の徒然

『甲賀三郎探偵小説選II』 論創社

●『甲賀三郎探偵小説選II』 論創社 読了。

 気早の惣太シリーズ全七編が、意外なほど面白い。わずか十ページほどの小品にもかかわらず、展開の起伏で読ませるのはご立派である。全体に漂う軽みも、気楽に読めていい感じ。中でもベストは最終作「惣太の嫌疑」で、シリーズには珍しく殺人事件が扱われる。惣太に殺人の嫌疑がかかりそうになったりそれが晴れたり、次々ともたらされる情報によって二転三転する様が秀逸。

 他に気に入ったのは「凶賊を恋した変装の女探偵」で、通俗スリラーのパロディとも言えそうな終盤の奇天烈さに笑ってしまった。

 長編「朔風」は昭和十八年から翌年にかけて雑誌に連載された作品だそうで。時局臭が鼻について馬鹿げているが、そんな文言をまともに相手にしてはいけない。警察とセミプロの探偵と怪漢と謎の女とが入り乱れながら、物語は速いテンポで進んでゆく。偶然の上に偶然が積み重ねられているのに、ある人物があまりの偶然に疑いを起こすのが可笑しい。

 結末はまるで(伏字)ったなんざ、ずっこけるほどのことですらないが、それもまた味わいとなっている。漫然と流されるようにして読めば、複雑で起伏の多い展開はなかなか楽しめる。

●お願いしていた本が届いた。
『犯罪学者の眼』 W・ハラット 湘南探偵倶楽部
『探偵局』 C・ディケンズ 湘南探偵倶楽部