累風庵閑日録

本と日常の徒然

『モンタギュー・エッグ氏の事件簿』 D・L・セイヤーズ 論創社

●『モンタギュー・エッグ氏の事件簿』 D・L・セイヤーズ 論創社 読了。

 題名はこうなっているが、実際は全十三篇のうちエッグ氏ものは六編のみ。こいつがなかなか手強い。少ない分量の中に事件に関連する情報が高密度で詰め込まれている。ページに余裕がないから、推理の過程を丁寧に語ってはくれない。軽い気持ちでページをめくっていると、情報を消化できないまま、作者の狙いを受け止めることができないまま、すぐに結末までたどり着いてしまう。

 それではというので、きちんと情報を頭にインプットしながらゆっくり読んでいっても、キーアイテムに馴染みが無くてどうもピンとこない。こいつは手強い。どれほどきちんと読めたのか覚束ない。

 そんな中で一番気に入ったのは、伏線とその処理とが割ときちんとしている「香水を追跡する」であった。次点は、真相に至る過程はさほどどもないが事件の異様さが際立つ「マヘル・シャラル・ハシュバス」。

 冒頭に収録された、ピーター卿ものの中編「アリババの呪文」は組織犯罪ネタ。ピーター卿ってこんな味わいの作品にも登場しているのか、という意外さが読み所。

 後半のノン・シリーズはどれも佳作、秀作揃いで、個人的にはこちらの半分こそ楽しめた。その中でもベストは「バッド氏の霊感」で、バッドの氏のひらめきとその結果とが素晴らしい。

 巻末の訳者あとがきによれば、本書に未収録のモンタギュー・エッグものは五編あるそうで。そのうち四編は、手持ちの本や雑誌に収録されていることが分かった。読もうと思えばすぐにでも読めるわけだ。まず該当の本を積ん読の山から発掘する必要があるにしても。残りの一編についても掲載誌が分かったから、どうしてもと思えば読む手はある。これは保留としておく。

●二方面から、お願いしていた本が届いた。
『古本屋サロウビイの事件簿』 J・B・ハリス-バーランド ROM叢書
『冷血の死』 L・ブルース ROM叢書
『怪奇探偵十一号室の怪』 今日泊亜蘭 盛林堂ミステリアス文庫

 それにしても現在の、私家版や同人誌が発行される勢いは目覚ましい。購入する本の中で、一般に流通する商業出版の割合がずいぶん低下している。