メインの長編「三十九号室の女」は、ホテルの一室での殺人事件を巡り、警察と主人公と二方面の探索活動が描かれる。前者の模様は私好みの地道なもので、これは読ませると期待した。ところが後者の主人公とその友人の探偵活動は、沈思黙考よりも動きを見せることを重視したのか、偶然を多用し偶然を繰り返す筋の運びがどうも困りもの。
雨村はフレッチャーに影響を受けたそうで、なるほどいかにも、と思う。どうやら、この作家殿の志向と私が期待するものとではかなり違っているらしい。論創社の二冊目にしてようやくそれが見えてきた。論創社の第三巻はちとてこずるかも知れぬ。
同時収録の短編は軽い味でさっと読んでしまえる作品が多く、特にコメントしたくなるようなものは無かった。例外は「三つの証拠」と「喜卦谷君に訊け」くらい。前者は些細なことではあるが手掛かりに基づく推理が描かれてあって、もうそれだけで好感が持てる。ページ数の少なさがいかにも窮屈ではあるが。「喜卦谷君に訊け」は探偵小説というより犯罪を扱ったコントで、ユーモアに軸足を置いた軽快な面白味がある。