累風庵閑日録

本と日常の徒然

『小酒井不木探偵小説選II』 論創社

●中断していた『小酒井不木探偵小説選II』 論創社 を再開して読了。

 霧原警部ものの二編「呪はれの家」と「謎の咬傷」とは、科学的捜査法が作者の意図した読みどころなのかもしれんが、むしろ奇天烈な真相の方が記憶に残る。シリーズ以外にも、題名は書かないが探偵役と悪人とがある種の超能力バトルを繰り広げる作品があって、その突拍子もなさが楽しい。

「通夜の人々」は秀逸。手掛かりに基づく仮説と新事実に基づく修正とを積み重ねつつ、一筋縄ではいかない結末にたどり着く。「直接証拠」は切れ味鋭い倒叙サスペンス。「愚人の読」はロジックを積み重ねて真相に迫る秀作。

 全六編の松島龍造ものにはちょっとしたアイデアが光る佳品が多い。それとは別に、「妲己の殺人」の突き抜けっぷりも際立つ。

 小酒井不木といえば変態性欲だとかマッドサイエンティストものだとか、そんな作品を書くイメージであった。ところが実際はロジックの面白さを追求した作品も多々あるようで、今回本書を読んで大いに見直したことである。