累風庵閑日録

本と日常の徒然

『首』 横溝正史 角川文庫

●『首』 横溝正史 角川文庫 読了。

「生ける死仮面」
 グロさを前面に出した愛欲と情念の物語(伏字)のが気に入った。

「花園の悪魔」
 同年に発表された長編「幽霊男」から、いくつかの要素を抜き出して再構成したような作品。動機の異様さが甚だしい。

「首」
 収録作中で最も好みに合っていた。いくつものミステリ的趣向が盛り込まれているのが嬉しい。真相を知って読み返すと、ある伏線のたった一行の記述にグッとくる。舞台は山間の湯治場で、季節は秋。背景設定もそそられる。こういうのを読むと、暑くもなく寒くもない季節に温泉旅館に長逗留して退屈したい。

 収録作のうち、「生ける死仮面」と「蝋美人」とは雑誌『講談倶楽部』に掲載された。「花園の悪魔」は『オール読物』に掲載。それら大衆雑誌向けの作品と、ミステリ専門誌『宝石』に掲載された「首」とではやはりトーンがまるで違う。個人的には断然後者の味が好みである。