累風庵閑日録

本と日常の徒然

『十三の階段』 山田風太郎 出版芸術社

●『十三の階段』 山田風太郎 出版芸術社 読了。

 山田風太郎コレクションの第三巻である。風太郎が関わった連作ミステリを全て収録したという。本書はまず第一に、こんな珍品の数々を読めることに大きな意義がある。

 収録作中のベストは「怪盗七面相」。同じ題材を扱った一話完結型で、連作というよりは競作というべきか。こういった形式だと全体の構成を綺麗に整える必要性が薄れるから、各作家の短編を個別に楽しめる。そして最終話「諸行無常の巻」を担当した山田風太郎の手腕がお見事。この結末の付け方には感心した。

 次点は「十三の階段」で、連作にしては割と一貫した構成が上出来。「地獄篇」を担当した山田風太郎の筆がすさまじいのも読み所。事件は派手で魅力的だし、犯人設定にもきちんと意外性を持たせている。

「悪霊物語」では発端編を担当した乱歩の世界観が、おまけの「私のつけ句」も含めて突出している。

 ジュブナイル連作「夜の皇太子」は、他の収録作とはちと性質が違う。最初から、大人向け作品とは期待するものが違うのだ。構成の破天荒さが欠点にならず、むしろハチャメチャな展開こそが面白味だったりする。夜の皇太子と夜の女王との闘争に巻き込まれた、主人公雪彦君の運命やいかに。これは面白い。

 ちと心細い出来栄えの作品も混じっていて、読み始めたときにはどうしたもんかと先が思いやられたが、読了してみると全く満足である。

●税務署から所得税の還付金が振り込まれた。臨時収入だと錯覚しそうになるが、そうではない。払い過ぎた税金が戻ったので、つまりはマイナスがゼロになっただけである。