累風庵閑日録

本と日常の徒然

『寝台急行「昭和」行き』 関川夏央 中公文庫

●『寝台急行「昭和」行き』 関川夏央 中公文庫 読了。

 鉄道旅行を題材に、昭和時代の来し方に思いを馳せる紀行エッセイである。読んでいると私自身の幼少期の記憶が刺激されて、地元ローカル線の風景が浮かんでくる。遠い国鉄時代の、木造駅舎とディーゼルカーと、かろうじて現役だった貨物専用支線といったイメージである。

 風景の記憶にはその時代の空気感が伴い、それどころか当時の己の愚かさ幼さも思い出してしまう。読んでいて気持ちがざわつく本である。

 登場する土地も駅も路線も、国内ならばその多くに行ったことがあるし乗ったことがある。読みながら、数年前まで頻繁に出かけていた旅行のあれこれを思い出していた。これは近過去の記憶。

 読み手の経験や世代によって、感じ方が大きく変わってくる本であろう。