累風庵閑日録

本と日常の徒然

『不思議を売る男』 G・マコーリアン 偕成社

●『不思議を売る男』 G・マコーリアン 偕成社 読了。

 ふとしたことから古道具屋で働き始めた奇妙な男、MCC・バークシャー。店を訪れた客が売り物に興味を示す度に、彼はその品物にまつわる物語を語りだす。という設定の連作短編集。全体を覆う枠組みがひとつの読みどころ。素性が知れず、物語によって人の心を自在に操るMCCが、ふと不気味に見える瞬間がある。

 それぞれの物語がなんと魅力的なことか。形式はバラエティに富み、犯人当てミステリ、奇妙な殺人を扱うサイコサスペンス、怪奇小説、ホラ咄、海洋冒険譚、さらにはロマンスや戯れ詩まで。内容の多くは、特定の悪徳を体現する人物がまさしくその悪徳に縛られて不幸になってゆく顛末である。だがそれだけではなく、ちょいと胸に迫るエピソードもある。

 個人的に文章のリズムが性に合うのか、読んでいて気持ちいい。文意がすんなり頭に入ってくるので嫌われ役は本当に不愉快で、おかげでぐいぐい読める。特に気に入ったのは「ロールトップデスク[犯人探しの話]」、「木彫りのチェスト[いつわりの話]」、「鉛の兵隊[誇りの話]」といったところ。

 その昔MYSCONが定期的に開催されていた頃、界隈で話題になった本である。当時私もその話題に乗っかって購入し、以来今まで積ん読になっていた。今回ようやく手に取って、いやはやこれは読んでよかった。傑作である。

国会図書館から、横溝正史「壺の中の女」のコピーが届いた。長編「壺中美人」の原型短編で、読むだけならば光文社文庫の『金田一耕助の帰還』に収録されている。だが、初出の挿絵を観てみたくなったのだ。