累風庵閑日録

本と日常の徒然

『鮎川哲也探偵小説選III』 論創社

●『鮎川哲也探偵小説選III』 論創社 読了。

 ジュブナイル集である。いい歳したおっさんが読んで本気で楽しめるものではないけれども、ジュブナイルなりの面白さがあるわけで。それに、そもそも本書の意義は、今まで単行本未収録だった作品の数々が読めることにあるのだ。面白かろうがそうでなかろうが、読めないことにはお話にならない。

「悪魔博士」は怪人が跳梁するSFめいたミステリかと思っていたら、着地点が意外。他に気に入った作品は、きちんと手掛かりが仕込んである「白鳥号の悲劇」、「虫原博士の死」、「黄色い切手」といったところ。特に「虫原博士の死」は、指摘されて初めて気付くあからさまな手がかりがお見事であった。

「一夫と豪助の事件簿」では、中編のボリュームがある「黒い暗号」がベスト。しっかり長さを確保して展開に起伏があるし、暗号周辺の趣向もよく出来ている。「南海荘事件」は事件の密度が高い秀作。伏線が効いてる「祭りの夜の事件」、シンプルなネタが好ましい「呪いの家」、といったところもちょっとした佳編であった。

 第二巻で脱落していたという「冷凍人間・補遺」は、これも読めることに意義がある。第二巻を再確認したところ、今回挿入分のダイジェストである第七回第一章の手際のよさに感心した。