●『オールド・アンの囁き』 N・マーシュ 論創社 読了。
一見平和な田舎の村で起きた殺人に、ロデリック・アレン主任警部が挑む。物語の流れは、地道に手がかりを集め堅実に推理を積み重ねてゆくオーソドックスなスタイルで、読んでいて実に居心地がいい。
登場人物の造形も読みどころ。「老バシリスク」と評されるラックランダー夫人、アルコール依存症で弓の名手のサイス中佐、村の美しい風景をこよなく愛するケトル、なんて面々が活き活きと描かれている。終盤になってふとしたことから意外な側面を見せる某人物も捨て難い。
数々の手がかりから事件前後のある人物の行動を見事に再現してみせるアレン。これが中盤のハイライト。アレンはまた、現場の状況と村の人間関係と、ある人物のちょっとした言葉から犯人の属性を見抜く。終盤で語られるその解釈が秀逸である。