累風庵閑日録

本と日常の徒然

『延原謙探偵小説選II』 論創社

●『延原謙探偵小説選II』 論創社 読了。

 わずか数ページの、しかも捻りや切れ味で勝負するタイプではない掌編が多い。コメントを付けたいと思う作品は少ない。一番気に入ったのが「カフェ為我井の客」である。主人公の奇人為我井(ためがい)君が醸し出す、どうにもしょうのないユーモアが楽しい。「妻君とカタラうにも為我井は(以下六十字削除)」と書いてある、もうこれだけで可笑しい。

 懸賞クイズ集である「誌上探偵入学試験」のうちの第五問「砂丘の足跡事件」は、題名の通り砂丘に記された複数の足跡から、現場で何が起きたかを読者に再現させるもの。その要求水準はあまりに高くあまりに詳細を求め、二ページ半の問題文に対して設問が十もある。クイズ形式でなしに、例えばソーンダイク博士のような堅実派名探偵を主人公にしてちゃんとした短編ミステリに仕立てると、ちょっとした秀作になったかもしれない。

 後半は「勝伸枝作品集」である。これが予想外に気に入ってしまった。収録作中の双璧が「チラの原因」と「ヨンニヤン」で、登場する女学生達がスラングを喋ったり教師のゴシップに夢中になったり、実にそれらしく活き活きと描かれている。「墓場の接吻」と「嘘」とはなかなかに凄味な心理サスペンス。「身代わり結婚」は、なんかもういろいろどうでもよくなって勝手にやってろと思ってしまう好編。これでも褒めているのである。