累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ダーク・デイズ』 H・コンウェイ 論創社

●『ダーク・デイズ』 H・コンウェイ 論創社 読了。

 主人公が過去を回想した手記という体裁である。彼がなかなか熱い人物で、ほとばしる感情を叩き付けるように記している。文章の熱量がただ事ではない。ヒロインがこれまた感情が強く、主人公の熱に熱を加えて大変なことに。

 十九世紀の作品だからまどろっこしいだろうという先入観はいい意味で裏切られ、物語は意外なほどスピーディーだし、冗長な会話も少ない。その上この熱量で、ぐいぐい読まされてしまう。

 結末はありがちと言えばありがちで、早い段階で予想がついてしまう。だが、そこに至るまでの展開は予想できなかったので不満はない。関連する情報の扱い方が意外でちょっと面白い。

 全体として期待を大きく上回る秀作であった。ところで、巻末の訳者あとがきに興味深い記述がある。明治期の翻案小説の復刊と原作の新訳とが、「早稲田文庫プロジェクト」という名称で進行中だというのだ。すでに丸亭素人の「鬼車」がオンデマンド出版で刊行されている。今後の活動の成果に期待したい。