累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ブルクリン家の惨事』 コール 新潮文庫

●『ブルクリン家の惨事』 コール 新潮文庫 読了。

 老富豪の誕生パーティーのために屋敷に集まった人々。参加者の前で老人の遺言の内容が発表された翌日、二件の殺人が発覚する。なんとまあ、典型的な展開である。典型好きとしてはもうこれだけで嬉しい。しかもその殺人は、互いに相手を殺したように思える被害者とも加害者ともつかぬ死体が、書斎と庭という離れた場所で発見される奇妙さで。

 浮かび上がった容疑者は、ろくでなしだが殺人を犯すような人物ではない、と義理の娘は信じた。彼女とその恋人は、義父の冤罪を晴らすため独自の捜査に乗り出す。容疑者の一連の動きを記入した地図が挿入され、関係者達の行動タイムテーブルが整理され、事件に関するディスカッションが繰り返される。

 真相の意外性を重視せず、着実堅実な捜査の模様を主眼とする作風は好きなタイプである。恋人達の素人探偵ぶりもなかなかに軽快。哲学書を読む道路工事の夜警や、ドン・キホーテを連想させる奇人の浮浪者「スペイン人」といったほんのチョイ役が魅力的。犯人の計画もちょっとしたもの。もっと退屈するかと思っていたら、予想を大いに裏切られた快作であった。

●取り寄せを依頼していた本を受け取ってきた。
『白蝋仮面』 横溝正史 柏書房