累風庵閑日録

本と日常の徒然

『もうひとりのぼくの殺人』 C・ライス 原書房

●『もうひとりのぼくの殺人』 C・ライス 原書房 読了。

 途中までは、どうも捉えどころのない作品であった。主人公が殺人の容疑で警察に追われる身となる。ところが実際に疑いがかかっているのは、全く記憶にない別人としてであった。自分は二重人格で、無自覚なまま二重生活を送っているもうひとりのぼくが殺人をやってしまったのか。

 でも彼は、もうひとりのぼくは殺人をしていないと断言する。これまた捉えどころのない探偵役も、彼はやっていないと断言する。何か根拠があってそう言っているのか、それとも主人公の人柄から判断したのか。その辺りの議論が深まることなく、事件を詳細に検討することもなく、物語は主人公が追われるサスペンスを主軸にして流れてゆく。

 見知らぬ自分がもう一人いるという夢幻的な雰囲気を漂わせるこの作品の、最終的な着地点にはとても感心した。なんとまあそうくるか。それに、あっけらかんとした伏線はどうだ。傑作である。