累風庵閑日録

本と日常の徒然

『九つの銅貨』 W・デ・ラ・メア 福音館文庫

●『九つの銅貨』 W・デ・ラ・メア 福音館文庫 読了。

 全十七編を収録した童話集から五編を選んだそうで。出てくる人間達はそれぞれ個性豊かである。たとえば妖精の跳梁に腹が立つあまりノイローゼになった男。他人の幸せが憎くてしょうがない老人。一生を家事労働と家族の世話とに費やしてしまった老婆。

 出てくる妖精達は罪のない悪戯をする無邪気な存在ではなく、その気になれば人間を破滅させられる不気味さを漂わせている。物語は、ぎりぎりのバランスでかろうじて怪奇小説にならず、子供向けの読物に踏みとどまったような不安感がある。