累風庵閑日録

本と日常の徒然

「怪の物」

●学研M文庫の『ゴシック名訳集成 西洋伝奇物語』を手に取った。五百ページのこの本を一気に通読するのはしんどいので、来年にかけて細切れで読んでいこうと思う。

 まずはエドモンド・ドウニイ「怪の物」を読む。あやしのもの、と振り仮名がしてある。要するに怪物で、モンスター小説である。そのモンスターてえのが、ありがちな人狼や吸血鬼ではなく(伏字)なのがちょっと珍しい。

 じわじわと怪異を盛り上げる中盤までは型通りで私好み。あるキーパーソンの登場によって物語は転調し、犯罪実話めいた趣が加わってくる。

 訳者は黒岩涙香である。その訳文がどんなものかというに、最初の第一文を引用すると「読者よ、余が開業せし倫敦町尽れの家と云うは、大道より稍々入込みて広き空地の片隅に建てられたる者にして、先ず野中の一軒家とも称す可き、最静に最淋しき家なりき。」ってな具合である。振り仮名が付けてあるので、慣れてくればこの名調子は案外すらすらと読める。

●注文していた本が届いた。
『M・P・デア 怪奇短編集』 翻訳ペンギン

●お願いしていた翻訳道楽が届いた。E・D・ホックのサイモン・アーク集第二弾である。
『セクシーな密輸人』
『消えたアイドル』
襤褸をまとった暴漢』
『神秘的な女主人』
『行方知れずのビーナス』
付録として『楽園を創る話』 アーサー・ムーア