累風庵閑日録

本と日常の徒然

『嘆きの探偵』 B・スパイサー 論創社

●『嘆きの探偵』 B・スパイサー 論創社 読了。

 警官を殺した銀行強盗犯人を追って、ミシシッピ川を下るクルーズ船に乗り込む主人公。私立探偵と船上ミステリとの組み合わせが興味深い。ミシシッピ川に関する歴史的背景が面白いし、たとえばアシスタントパーサーのラッセルなど、魅力的な人物もいる。

 それはいいのだが。全体の方向性としては限定空間での犯人探しが主眼になっているわけではない。かといって、主人公が一歩一歩事実関係を明らかにしてゆく「足の探偵」の趣向が色濃いわけでもない。どうも物語の焦点がぼやけているのではないかと思いながら読んだ。

 前回読んだ「ダークライト」でも感じた探偵のウェットさが、この作品でも見受けられる。シリーズを続けて読んでいると、その辺りも人間味として魅力になってくるのかもしれない。