累風庵閑日録

本と日常の徒然

『腹話術師』 三橋一夫 出版芸術社

●『腹話術師』 三橋一夫 出版芸術社 読了。

「ふしぎ小説集成」の第一巻である。描かれるのはささやかな日々の喜びと、人の世の辛さと哀しさ、そしてふとした瞬間に見えてしまう別世界の不気味さ。

 現実と異界との境目は曖昧で、目に見えない兎や学識深い鼠が日常生活の中にやすやすと入り込んでくる。石像に口を奪われ、生まれ変わって鶏になり、鏡の向こうに幸せな人生を見出し、数秒間で三年間を生きる。いやはや、こいつは面白い。続巻を読むのが楽しみである。