累風庵閑日録

本と日常の徒然

『古墳殺人事件』 島田一男 扶桑社文庫

●『古墳殺人事件』 島田一男 扶桑社文庫 読了。

「古墳殺人事件」と「錦絵殺人事件」の二長編と、短編ひとつが収録されている。どちらの長編も、発表は今から七十年以上前である。馬鹿々々しさすれすれの殺人トリックと全編に散りばめられた衒学趣味とに、戦後日本ミステリがまだ若かった時代の熱気と勢いとが感じられて微笑ましい。そんなやり方で上手いこといくのか、という疑問に対しては、上手くいったから犯罪が成立したのだ、と回答すればよろしい。

 だが、マニア臭がちと鼻につく部分もある。新聞記者出身で少年雑誌の編集長という主人公の設定と、博覧強記の超探偵という造形とが私の中でどうにも結びつかなくて、最後までピンとこなかったのも困りもの。

 私にとっては出会うのが数十年遅かった作品だと思う。遅くとも、本書が刊行された二十年近く前にすぐ読んでおくべきであった。小説の好みが歳とともに変わってきて、しばらく前からこういった(以下、自分語りが続くので省略)。