累風庵閑日録

本と日常の徒然

『灰色の手帳』 仁木悦子 論創社

●『灰色の手帳』 仁木悦子 論創社 読了。

 仁木悦子少年小説コレクションの第一巻である。収録作中で一番気に入ったのは、中学生の雄太郎、悦子兄妹が登場する「みどりの香炉」であった。小品ではあるがきちんとミステリの結構を備えているのが好みに合っている。犯人の仕掛けや手がかりに基づく推理があり、家の見取り図まであって嬉しい。

 次点は「消えたリュックサック」である。相撲取り岩ノ山の造形がなんとも。腹が減って力が出ず、もらった弁当をぺろりと平らげて力を回復するだなんて、さながら民話に出てくる鬼か大男かという素朴さが味わい深い。お供えを捧げると利益や幸福をもたらしてくれる、力持ちの異能者の立ち位置である。