累風庵閑日録

本と日常の徒然

『怪盗ニック全仕事5』 E・D・ホック 創元推理文庫

●『怪盗ニック全仕事5』 E・D・ホック 創元推理文庫 読了。

「クリスマス・ストッキングを盗め」は、ニックシリーズでクリスマスストーリーを書くとなるほどこうなるのか、という佳品。「マネキン人形のウィッグを盗め」は、今何が起きているのかの興味で読ませる秀作。主筋と脇筋との関係に妙がある。

「レオポルド警部のバッジを盗め」は、ひねった設定ではあるが根本の部分は殺人犯を探す王道のミステリ。被害者が存在すること自体が犯人を絞り込む材料になっているロジックが秀逸。

「禿げた男の櫛を盗め」は、人の心の闇が見え、人生の長さをうかがわせるヘヴィーな作品。実在の人物と書店とが登場する「錆びた金属栞を盗め」は、番外編的な楽しさがある。

 収録作中のベストは「消印を押した切手を盗め」であった。冒頭の死体の奇妙さも、真相が(伏せ字)ネタであることも高ポイントである。ちょっとした人間模様が盛り込まれているのも味わい深い。