累風庵閑日録

本と日常の徒然

『誰がロバート・プレンティスを殺したか』 D・ホイートリー 中央公論社

●『誰がロバート・プレンティスを殺したか』 D・ホイートリー 中央公論社 読了。

 捜査ファイル・ミステリーの第二巻である。今回は関係者の手紙を中心に構成されており、捜査ファイルと名乗るのはちと苦しい。前書きによると、この変更は著者自身の意向らしい。二番煎じが嫌だったとのことだが、シリーズ最大の特徴を変えてしまうのがどうも解せぬ。

 一冊の本の構成としては前作『マイアミ沖殺人事件』の方がスマートだが、今回作り方を変えたことで展開に起伏が出て、読んで面白いのはこちらであった。だが反面、普通のミステリ中編に近づいてしまったのが、せっかくのシリーズなのに惜しいと思う。

 探偵役は前作と同様にシュワッブ警部補である。彼が真相に思い至った手掛かりがふたつあって、ひとつはなんと(伏字)だそうで。そりゃあないよ、と思う。この手掛かりを読者が利用するのは無理である。

 もうひとつは実に些細なもので、そんなの気付くわけないだろうと思わないでもない。だが、(伏字)に馴染みのある文化圏の読者ならあるいは気付くのかもしれない。また、このネタを証拠の実物を使わずに文章だけで表現するのはかなり難しいだろう。その意味では趣向が効いていると言っていい。

 読者が巻末の袋閉じを開く前に真相を再構成するには、情報の量がちと心細い。読者に推理を促すゲーム小説の態でいながら、実際のところ作者にそのつもりはなかったのかもしれない。それはそれとして、上記のようにミステリとしての面白さはあって、解決部分の流れがいい感じ。