●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十四回として、第五巻から中編「マラコット深海」を読んだ。訳者は和気律次郎である。
予備知識なしで手に取った。海洋冒険小説のつもりでいたら、なんと主人公が遭難してから始まる(伏字)ネタだったとは。奇怪な深海生物が襲ってくる描写が、モンスター小説めいて楽しい。終盤の、異様で急激な風呂敷の広げっぷりが、バカバカしさすれすれでこれまた楽しい。
以下、余談。どこで見かけたか忘れたけれども、この作品を評して「深海を舞台にしたスペースオペラ」だという。こういう評言が出てくること自体にちょっと感心した。それまでの本や映画といった蓄積があるからこその例えなわけで。私はスペースオペラに馴染みがないので、この作品と結びつける発想は浮かんでこない。いかなる本であれ、読み手の器の範囲内でしか読めないのだ。