累風庵閑日録

本と日常の徒然

『二百万ドルの死者』 E・クイーン ハヤカワ文庫

●『二百万ドルの死者』 E・クイーン ハヤカワ文庫 読了。

 クイーン名義であるが、実際は別人が書いたというのは周知であろう。実作者がクイーンであろうがなかろうが、やけに面白いのだこれが。内容を一言で表すなら、行方不明になっている戦争の英雄を探し出して抹殺せよ。ジャンルで分けるなら冒険小説になる。

 伝説的な反ナチの闘士、ミーロ・ハーハの足跡をたどって、主人公達の一行はイギリス、スイス、オーストリア、そして鉄のカーテンの向こうチェコスロヴァキアにまで遍歴する。そこにからむのは国際スパイにサイコ・キラー、闇物資の密輸人といった多彩な面々。様々な思惑や陰謀がからみあい、多くの人々があっさりと命を落としてゆく。先が読めず起伏の大きい物語は魅力十分である。スパイサスペンスの映画を観ているようだ。終盤で明らかになるハーハの実像にも、捻った面白さがある。

 ただし面白さの幾分かは、個人的事情による。久しぶりにこういったジャンルを読んで新鮮だった。どうせ名義貸しなんて……といった根拠のない思い込みのために期待値がかなり低かった。