累風庵閑日録

本と日常の徒然

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第二十七回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十七回。今回から第六巻に取りかかり、「ジエラール旅團長の武勇傳」を読んだ。今はすっかり老いてしまったジェラールが、若かりし頃ナポレオンに仕えて縦横無尽に欧州を馳せ巡り、数々の武勲を立てた思い出話を語る連作短編集である。

 我こそは最高の剣士であり、最高の騎手であり、何より誇り高き最高の武人である。私は機略に優れ胆力十分、咄嗟の機転が利き決断力も行動力も衆に秀でておる。そういった自負でぱんぱんに膨れ上がり、口を開けば自慢が飛び出すジェラールの造形がなかなかに微笑ましい。

 内容はバラエティに富んで飽きない。敵陣に潜入して破壊工作をしたり、味方の陣営に信号を送るべく敵の勢力圏内にある山上の狼煙台を目指したり。敵の計略にかかって捕らえられ、すんでの所で危機を逃れたり。はたまた隠密活動の途中でいながら英軍の狐狩りに闖入して、見事狐を仕留めて英国人を悔しがらせたり。現代物ならばカーアクションをやるところ、乗馬での追跡劇もある。

 だが、結末が滅びに至るのは歴史的事実である。ワーテルローの闘いで惨敗するナポレオンを救うため、ぎりぎりの奮闘をするジェラール。そしてある目的のためにジェラールが活躍する海洋冒険小説めいた作品で、連作シリーズとしての大団円を迎える。こうやって全体の結末をきっちり付けることで、長編を読んだような満足感を覚える。

 フランスの軍隊には風流、武侠、献身といった美しく勇ましいものが備わっているが、英国の軍隊に備わっているのはただひとつ筋肉! ってなことを英国人ドイルが書いているのもちょっと面白い。