累風庵閑日録

本と日常の徒然

『カマフォード村の哀惜』 E・ピーターズ 長崎出版

●『カマフォード村の哀惜』 E・ピーターズ 長崎出版 読了。

 殺人をメインの題材にしているから、ミステリではある。だが、作者が書きたかったのはそれだけではないようだ。作中で扱われているのは、少年の成長、親子の絆、舞台となった村の住人達の様々な想い、といったもので、味わいは普通小説に近い。私がエリス・ピーターズを敬遠したいのは、こういった作風のためである。私はただのミステリを読みたいのだ。

 被害者は村の嫌われ者で、殺されたのを悲しむ者は一人もいない。事件に取り組むフェルス巡査部長は、数々のトラブルの源が殺人によって取り除かれた状況であることを理解している。それでも事件解決に向けて努力しなければならない根拠として、作中で提示される視点がちょっと面白い。誰が犯人か分からない間は、村には不安と疑心暗鬼とがはびこっている。犯人を見つけて罰を与えることは、罪によって穢された共同体の秩序を取り戻す儀式なのである。そういうのは、古代社会では宗教的指導者が担っていた役割であろう。

 で、読み終えた結論としてはまあ満足。最後の着地点のおかげで、焦点がぱっと合って全体像が明瞭になる。この〆方はお見事であった。

●これで長崎出版のGEMコレクションを読み終えた。来年からは原書房のヴィンテージ・ミステリを読んでいくことにする。

●書店に出かけて本を買う。
『九人の偽聖者の密室』 H・H・ホームズ 国書刊行会
 いよいよ刊行が始まった「奇想天外の本棚」の、第一回配本である。今後の継続と発展とを期待している。