累風庵閑日録

本と日常の徒然

『続・相良一平捕物帳』 森達二郎 春陽文庫

●『続・相良一平捕物帳』 森達二郎 春陽文庫 読了。

 なんともそつなく書かれた通俗娯楽時代劇。主人公は同心の相良一平で、目明かしの太鼓松とその手下合点庄次とが子分格である。馴染みの川魚料理屋菊水の、看板娘お利江が相良一平にすっかりホの字にレの字てえのが、まあお約束。

 四人の掛け合いが手慣れた感じで書かれていて、まるでホームコメディの味わいである。他にも目明しに憧れる新太少年や、太鼓松のさらに手下である吉と竹なんかもレギュラーメンバーで、相良ファミリーとも言うべき一団の活躍が描かれる。

 想定読者は成人男性だったろうから、当然のようにお色気も散りばめられている。悪人達が仲間内でべらべら喋っているのを盗み聞きして真相判明! ってなパターンがちょいちょいあって、推理もなにもあったもんじゃない。

 あるいは、相良一平が無頼の徒に身をやつして潜入捜査を行うなんて、遠山の金さんか暴れん坊将軍かという作品もある。つまりは、難しいことを考えずにさらっと読めばいい消閑小説なのである。

 だが、全部が全部その調子ではない。「猪牙舟心中」は、相良ファミリーの捜査の模様も真相の構成も割とミステリに寄せていて、ちと感心した。真相に至る筋道は他愛ないけれども、それを捕物帳で気にしてはいけない。「わなにかけたわな」は、悪人の造形とスピーディーな展開とが犯罪小説のようだ。「好色きんちゃく切り秘抄」と「痴情の重殺」とは、複雑にからみ合った人間関係を背景とする犯人探しの物語。

●お願いしていた本が届いた。
『マヒタイ仮面』 楠田匡介 湘南探偵倶楽部