累風庵閑日録

本と日常の徒然

『フェンシング・マエストロ』 A・P・レベルテ 論創社

●『フェンシング・マエストロ』 A・P・レベルテ 論創社 読了。

 主人公の造形が沁みる。政治や世間から一歩身を引いて超然と生きていたいのに、五十歳を過ぎてふと考えるのだ。近い将来の老化による体の衰えを。あるいは、やや遠い将来の死後に自分の大切にしてきた品々がどうなるかを。銃が普及して、フェンシングがスポーツになってゆく時代の変化も無視できない。途中までは、内省的な主人公の静かで淡色の生活に飛び込んできた鮮烈な色合い、ってな具合に物語が進む。これはこれで沁みる。そして事件が起きてからは俄然スピードアップして、ハードな物語になる。これがどうもエキサイティングである。

 主人公がフェンシングの教師という設定がちゃんと活きてる。盛り込まれたミステリ的趣向はよくあるもので、だからこそ私好み。終盤のクライマックスも王道的展開で嬉しい。途中の引っ掛かりをきちんと回収した〆も上々。実に面白かった。

●東京文学フリマに行ってきた。先日作った同人誌『偏愛横溝短編を語ろう』を委託して、ありがたくお買い上げいただいた。以下、会場で買った本。
猿の手』 W・W・ジェイコブズ 綺想社
『Carr Graohic Vol.1』 饒舌な中年たち
を購入。