累風庵閑日録

本と日常の徒然

『乱歩とモダン東京』 藤井淑禎 筑摩選書

●『乱歩とモダン東京』 藤井淑禎 筑摩選書 読了。

 内容が想像とはちと違っていた。主に関東大震災以降の東京の発展が、乱歩作品への言及と同量かあるいはそれ以上の分量で扱われている。昭和通りの工事の様子を当時の文献から引用したり、文化住宅の戸数や遊園地の数など数値データを詳述したり。なるほど、題名では乱歩とモダン東京とが同じ重みで並んでいるわけだ。はっきり言って少々退屈であった。その点は私の興味の問題で、どうも申し訳ない。

 乱歩はその通俗長編のなかに、当時の最新の文化を取り入れた。京浜国道を疾走するカーチェイス、庶民のあこがれだった文化住宅、都市のランドマークである国技館、といった要素である。大衆向け娯楽小説において読者の馴染み深い背景のもとであこがれの最新文化を点描するのは、乱歩の意図的な戦略であるとする。面白い視点である。

 この「読み」が妥当かどうかについては、第一章で述べられている著者の立ち位置が興味深い。すなわち以下のような内容である。一連の通俗長編に対する乱歩自身の評価は低い。だが、それは果たして乱歩の本音なのか。乱歩自身にとって、通俗長編はどのような位置付けだったのか。「探偵小説四十年」は取り扱いに注意が必要で、書いてあることをそのまま鵜呑みにはできない。

 作品を研究する際、著者の自作への言及を無批判に受け入れることには注意深くあるべきである。だが、対象が文学作品の場合、他の資料を批判的に考察できなくとも、まず読んで評価してその価値を確定すればいい。そうなると、評価を下すのはそれぞれの読者であって、乱歩が自作をどう見ていたかは問題ではなくなる。だそうで。つまりこの本の内容は、著者が「私は乱歩をこう読んだ」ということである。

●書店に寄って本を買う。
『彼の名はウォルター』 E・ロッダ あすなろ書房
 秀作ミステリ「不吉な休暇」の著者ジェニファー・ロウの別名義だというので手を出してみた。この情報はツイッターで得た。ツイッターは情報源として本当に役に立つ。

●某所から先行予約していた本が二冊届いた。一般販売まではSNSその他で公開しないようにということなので、詳細は書かない。