偶然偶然また偶然で物語を転がしてゆく辺り、いかにも通俗スリラーである。だがそれと同時に、割と堅実な捜査の模様も描かれている。これが乱歩だったら、もっともっと不可能興味と怪奇趣味、変態趣味を盛り込んで犯人の跳梁を描いてみせただろうに。
黒魔王の正体をぎりぎりまで隠して引っ張っているし、解決部分で語られる大前田英策の推理は想像以上にそれまでの伏線を拾ったものになっている。この点、意外な面白さであった。本格ミステリを土台として通俗ものを書いたってところか。
スリラーなのは読む前から分かっている。いくらなんでもそりゃあ偶然が過ぎるだろう、なんて思ってはいけない。スピーディーに展開してゆく物語に、ただ身を任せていればいいのは、これはこれでお気楽で楽しい読書体験であった。
●書店に寄って本を買う。
『シャーロック・ホームズの事件録 悪魔の取り立て』