累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ウォリス家の殺人』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

●『ウォリス家の殺人』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫 読了。

 途中で予想外の情報が浮上して事件に新たな光が当てられ、それまで嫌疑の外にいた人物が急に注目され始める。登場人物の輪郭が次第に明確になり、ときには見えなかった側面が見え始め、人物相互の理解も関係も変わってゆく。ほんのチョイ役にもしっかりと人生を感じさせる設定が用意されている。読み進むにつれて人物像も物語自体も奥行きが深まってゆくのが、まず小説として面白い。

 解決部分で説明されていることだが、凄く微妙な書き方をしている食い違いが少なくとも三か所ある。犯人につながる重要な手掛かりである。そのうちひとつは私に知識がないので気付くことは不可能だった。他のふたつは、もしも注意深い読み方をしていれば気付いたかもしれない。もちろん私は気付かなかった。もう一点、犯人を限定する情報が実にさりげなく、しかしあからさまに書いてある。この辺の書き方はまったく上手いと思う。ディヴァイン、やっぱり面白い。まだ読み残しがあるから、先々楽しみである。

●注文していた本が届いた。
『不思議の探偵/稀代の探偵』 A・C・ドイル/A・モリスン 作品社
 特別限定付録の小冊子が嬉しい。