●来月、横溝正史読書会を計画している。課題図書は「貸しボート十三号」である。この作品を表題作とする角川文庫には他に二編収録されているので、せっかくだからそっちも読むことにする。今日はひとまず、「堕ちたる天女」を読んだ。
内容をすっかり忘れていたのだが、複数の情報をそれぞれカモフラージュするための複数の仕掛けがあって、予想以上に盛り沢山であった。等々力警部と磯川警部の顔合わせなんて読者サービスもある。ストーリーとは関係ないけれども、驚きの表現がやけに豊富なのが面白い。横溝作品ではおなじみの真っ赤にやけた鉄串以外に、重い鈍器で後頭部へ一撃を受けたような、太い棍棒でぶんなぐられたような、耳のそばでダイナマイトが爆発、部屋の中で水爆が爆発、と様々である。
正史の作品にありがちなことなのだが、結末部分がどうも駆け足であわただしい。また、最終盤で明かされて事件の様相を決定的に変えてしまう重要情報には、(伏字)という解せない点がある。これも解決を駆け足で済ませてしまったしわ寄せかもしれない。実現しなかった、改稿されて長編に仕立て直される未来を思い浮かべる。
事件の構造が、どうやらお役者文七シリーズの某作品と似通っているように思える。大いに注目すべきポイントである。少なくとも文七もので使われているある趣向は、「~天女」からの流用だと言っていいだろう。文七の方をきちんと再読しないとなんとも言えないけれども、「~天女」が原形だったりして。前段落の実現しなかった未来は、実はこういう形で実現しているのかもしれない。
●注文していた本が届いた。
『良夫君の事件簿』 楠田匡介 湘南探偵楽部