累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ブラックランド、ホワイトランド』 H・C・ベイリー 論創社

●『ブラックランド、ホワイトランド』 H・C・ベイリー 論創社 読了。

 がけ崩れの土砂の中から偶然、十数年前に行方不明になった少年と思われる人骨が発見された。文字通り埋もれていた過去の死が、現在に不穏な空気を醸し出す。地味派手ともいうべき展開がじわじわと面白い。少年の死は事故か自殺か殺人か。フォーチュン氏と地元警察とが調査をするが、どうにも決め手がない。そうこうするちにこれまた別の、事件とも事故ともつかぬ出来事が次々に発生する。殺人だ!奇怪な謎だ!ってな盛り上がりがないままに、何人もの人間が奇禍に遭う。

 探偵がロジックを駆使して、全てのピースをきちんとあるべき場所にはめ込むようなタイプではない。結末に至って(伏字)。それでもミステリを読んだ満足感があるのは、伏線がお見事だからなので。途中にごくさりげなく、些細でいながら決定的な矛盾が埋め込まれてある。こういうのは嬉しい。

 フォーチュン氏はいかにも名探偵らしく、地元警察に対し歯に衣着せぬダメ出しをする。さらにはスコットランドヤードの協力を得て、独自の調査に取り組む。ないがしろにされた地元警察のバブ警視は、己の対応能力が及ばないこともあって苛立ちを募らる。この辺り、能力に長けた者に状況を振り回されてじたばたする凡人という構図は、同じく凡人の私としては身につまされるものがある。

 初めて読んだフォーチュン氏ものの長編は、十分に面白かった。ぜひまた長編を訳して欲しい。もちろん短編集も訳して欲しい。