累風庵閑日録

本と日常の徒然

『グレイ・フラノの屍衣』 H・スレッサー ハヤカワ文庫

●『グレイ・フラノの屍衣』 H・スレッサー ハヤカワ文庫 読了。

 なんとも読み味の軽い作品である。複数の事件があってそれなりに起伏はあるものの、謎の追求に対する興味が前面に押し出されているわけではない。それよりも、内側に爆弾を抱えた大プロジェクトの成否の方が、サスペンスの主体である。実態は、ミステリの衣をまとった業界内幕小説、あるいはサラリーマン小説の色が濃い。忙しい仕事を抱え上司や同僚や取引先との関係に右往左往する主人公の姿からは、現実のサラリーマン生活を思い出してしまってしんどい部分がある。せっかくミステリを読んでいるのに、世知辛い現実に引き戻されるのはどうにも。とはいえ、個性豊かな登場人物達の活き活きとした描写は、つまらなくはない。

●某氏のご厚意により、昔の人形佐七映画を何本か観ることができるようになった。ありがたいことである。いずれちゃんと観て、この日記に感想を書くことにする。