累風庵閑日録

本と日常の徒然

『法と淑女』 W・コリンズ 臨川書店

●『法と淑女』 W・コリンズ 臨川書店 読了。

 私の夫は殺人者なのか? 主人公ヴァレリアが結婚した男は偽名を名乗っていた。彼はかつて、前妻毒殺の容疑で裁判にかけられた過去があり、そのことを恥じて素性を隠していたのであった。裁判の結果は証拠不十分による釈放。それは有罪の確証がないという意味で、無実の証明ではない。ヴァレリアは夫の無実を決定的に証明すべく、過去の殺人に対して敢然と追及を始める。

 彼女は夫の公判記録を熟読して、裁かれている死が事故でも自殺でもないとの結論に達する。ならば、夫の無実を晴らすためには真犯人を明らかにしなければならない。十九世紀に、こんなにストレートに犯人は誰かという興味が扱われているのが興味深い。ただし巻末解説によれば、コリンズに謎解きミステリを書く意図があったかどうかは微妙なところだそうで。実際、ロジックも解明に至る筋道も素朴なものである。時代のせいもあって、台詞は冗長だし展開は悠々としている。それでも着地点は予想外だし、謎が解明されたカタルシスは確かにある。全体の構成はきっちりしていて、細かい点までおろそかにされていない。

 登場人物が個性的なのも読みどころ。なかでも事件のキーパーソンのひとりであるデクスターとその従者エアリアルは、極端なまでに突出していて凄まじい。老いたるドンファン、フィッツ=デイヴィッド少佐の扱いは、微苦笑というか哀れというか。

●書店に寄って本を買う。
『ダイヤル7をまわす時』 泡坂妻夫 創元推理文庫
『建築知識 3月号』 エクスナレッジ