●『恐ろしく奇妙な夜』 Ｊ・Ｔ・ロジャーズ 国書刊行会 読了。
「赤い右手」の作者だからもっと尖がった作風かと思っていたら、意外にもオーソドックスな佳編ばかりで、秀逸な作品集であった。捻りの利いた好短編、クリスティーが書いてもおかしくないようなネタの中編ミステリ、そしてモンスターホラーまでどれもそつなく書かれていて安心して読める。
ただ、中編「つなわたりの密室」だけはちょいと異様。ねっとりとして夢幻的な文章で、題名の通り密室殺人が描かれる。情報提示の流れが自由奔放で、出来事なり人物の行動なりで欠けている部分が後になってぽろっと書かれたりする。そんな行ったり来たりの書きっぷりが、なおのこと地に足が付いていない感を抱かせる。なぜ（伏字）たのかという疑問が、読みながらずっと頭に引っ掛かっていた。これもまた行ったり来たりの筆法でいずれ情報が出てくるものと思っていたら、なんとその点こそが真相のキモであったとは。こういう前後の混乱が意図的な技巧なのであればさすがと思うのだが。
