A女学院の英語教師ニシ・アズマ先生が探偵役を務めるシリーズ短編集である。なにげない日常風景の中に誰も気付かないような違和感を見出すアズマ先生の観察眼と、そこから隠された裏の意味を読み取る洞察力とが、平明な文章で語られる。これはいい。
午睡が好きなアズマ先生のキャラクターは、最初のうち高野文子「るきさん」のようなイメージでいた。ところが本書では、「るきさん」の世界観にそぐわないようなちょいとヘヴィーな人間模様が描かれる場合もある。明るさとユーモアとを湛えた作品世界を読み進めてゆくと、やがては欲望、憎しみ、狡猾さ、といった人間の負の側面が浮かび上がってくる。だが中には、犯罪とは言えない不思議が語られる作品もある。
個人的ベストはミステリ色の濃い「犬」で、なぜ手首を切ったのかという謎が主題になっている。他に気に入った作品は「眼鏡」、「蛇」、「赤い自転車」、といったところ。