累風庵閑日録

本と日常の徒然

『トム・ブラウンの死体』 G・ミッチェル ポケミス

●『トム・ブラウンの死体』 G・ミッチェル ポケミス 読了。

 英国パブリック・スクールを舞台に展開される殺人物語が、ミステリの常道から微妙にずれたいつものミッチェル調で、楽しさ半分戸惑い半分である。会話のシーンで語られなかった情報が、あとになってそのときの会話で出てきたことになっている。章を変えるどころか一行空けることすらなく、後日の話に移っている。探偵役のブラッドリイ夫人が、ある隠された事情になぜ気付いたのかと問われて、一目瞭然だと言い放つ。ミステリの大きな要素であるはずのロジックの面白さを、軽々と投げ捨てているのである。

 終盤で、(伏字)なる展開は私の好みから外れていてちと興醒め。だがそれはたぶん、興醒めと感じる方が間違っているのだ。ずらしやスカしを楽しむのが、グラディス・ミッチェルの読み方なのだと思う。だいたい、題名からして人を喰ったもので。この作品にトム・ブラウンなんて登場しないのである。もうひとつ、個性的な登場人物達が活き活きと動き回るのも読みどころではある。

●注文していた本が届いた。
『空中紳士/南方の秘宝』 春陽堂書店
 合作探偵小説コレクションの第三巻である。