累風庵閑日録

本と日常の徒然

『百万に一つの偶然』 R・ヴィカーズ ハヤカワ文庫

●『百万に一つの偶然』 R・ヴィカーズ ハヤカワ文庫 読了。

 倒叙ミステリの迷宮課シリーズ第二巻である。最終的に殺してしまうほど相手への憎しみを募らせ、あるいは欲を募らせる犯人。最終的に殺されてしまうほど相手を追い詰めてしまう被害者。そんな人達の円満とは程遠い人柄や人生を、短編にしては長めの分量でもってじっくり描いてゆく。どうやらこの作者殿、結末における切れ味のようなものよりも人物造形の方に重きをおいているようだ。

 巻末解説によれば、作者は作家専業になる以前に犯罪実話を書いていたという。なるほどどおりで、と思う。そして私は犯罪実話は興味の対象外である。そういえば、昔読んだシリーズ第一巻『ゴムのラッパ』は、内容はすっかり忘れているけれどもどうもピンとこなかったことだけは覚えている。

 そんな中で面白かったのは、解明につながる手掛かりが奇妙な表題作「百万に一つの偶然」、ミステリ的な筋の運びが最も気に入った「ワニ革の化粧ケース」、オチまでの流れがスムーズな「手のうちにある殺人」、といったところ。