累風庵閑日録

本と日常の徒然

『中国梵鐘殺人事件』 R・V・フーリック 三省堂

●『中国梵鐘殺人事件』 R・V・フーリック 三省堂 読了。

 三つの事件が同時並行で進行するのを、程よく錯綜させつつ遅滞なく書いてみせる構成力が相変わらずお見事である。本書では、早い段階で明らかになる事件の黒幕が強大な政治力と賄賂の原資たる豊富な富とを持っており、ディー判事がいかにしてそれらの力に対抗するのかも読みどころになっている。そういった流れで、物語は法廷ミステリの様相を呈してくるのであった。

 一つの事件には、ちょっとした伏線とロジックのネタが仕込まれている。もう一つの事件には、いかにもミステリらしい捻りが仕込まれている。全体的に犯人は誰かという謎の興味は薄いが、これらの妙味があるおかげで満足度は高い。巻末には作者自身の解説があり、要所要所の書き方はそれぞれ中国の古典小説を踏まえたものだと語る。興味深いことである。