●『吸血鬼の島』 森英俊/野村宏平編 まんだらけ出版部 読了。
副題は「江戸川乱歩からの挑戦状I SF・ホラー編」である。主に昭和三十年代に少年誌に連載された、乱歩名義の探偵クイズ集。というのは器の話で、実際は推理どころか本文中の単語を抜粋した穴埋め問題が多い。展開はあまりといえばあまりな奔放さで、馬鹿馬鹿しさが突き抜けて面白味になっている。二十面相の変装なんかではない、実際の吸血鬼や海底人や宇宙人が横行するハチャメチャぶりである。そこに明智小五郎や小林少年や、二十面相がからむ。なんとこの三人が協力して事件に当たるイレギュラー編もある。
気に入ったのは以下のような作品。題名になっている海底人の謎が(伏字)「海底人ブンゴのなぞ」、世界中のミイラが放射能を持って歩き出す発端から、腰が抜けるような真相にたどり着く「のろいのミイラ」、改造人間を作るためにまず別の改造人間をつくるというトンチキぶりが楽しい「魚人第一号!」、なんとアイリッシュの某短編の翻案「指」。個人的ベストは「死人の馬車」で、ストレートな怪奇小説が途中から急激に方向転換するずっこけるような意外性があるし、手掛かりの出し方も面白い。
小ネタをひとつ。「生きていた幽霊」において、「ふしぎな足音」の節に出てくる西洋の怪談「船幽霊」とは、あらすじからしてF・M・クロフォード「上段寝台」のことだと思われる。「ノロちゃんと吸血鬼ドラキュラ」は原作があまりにもミエミエな翻案で、小ネタにもならない。
ついでに、購入特典の『《譚海》掲載 「犯人あて大懸賞」セレクション』も読んだ。扉絵と本文三ページからなる探偵クイズを七編収録した、トータル三十ページの小冊子である。扉絵にも手掛かりが仕込まれているのがキモ。内容はまるで他愛ないが、些細なネタを力ずくでミステリ仕立てにしている無理矢理さが可笑しい。