累風庵閑日録

本と日常の徒然

『毒のたわむれ』 J・D・カー ポケミス

●『毒のたわむれ』 J・D・カー ポケミス 読了。

 舞台となる屋敷とその住人達はどうも陰鬱で、事件はやけに陰惨で。それなのに、探偵役のパット・ロシターがあまりに奇矯な造形なのが少々浮いているようだ。巻末の訳者あとがきでは、そのモデルをチェスタトンのブラウン神父ではないかと推測している。なるほどと思う。外見はまるで違うが、言動が彷彿とさせる。

 動機の一端を暗示する手掛かりがあまりにデリケートでシビレる。こういうのがカーの持ち味なのだ。その一方で、犯人の言動の矛盾という手掛かりは、言われてみればかなりあからさまである。私は気付かなかったけれども。もうひとつ、複数種の毒にまつわる手掛かりもいい感じ。