累風庵閑日録

本と日常の徒然

『アガサ・クリスティーの大英帝国』 東秀紀 筑摩選書

●『アガサ・クリスティー大英帝国』 東秀紀 筑摩選書 読了。

「名作ミステリと「観光」の時代」という副題が付いている。クリスティー作品の多くを観光ミステリと捉え、そこで描かれた観光旅行のあり方を通して英国社会の変遷をたどる内容である。対象作品はたとえば、「ナイルに死す」、「オリエント急行殺人事件」、「白昼の悪魔」、「カリブ海の秘密」等々。時代背景は第一次大戦前から第二次大戦後まで幅広い。

 観光ミステリと並列するように、田園ミステリと分類された作品も多く採り上げられている。対象作品はたとえば、「スタイルズ荘の怪事件」、「アクロイド殺し」、「牧師館の殺人」、「予告殺人」等々。戦前には、中東をはじめとする海外を舞台に観光ミステリが比較的多く書かれた。それに対して戦後は、国内の田舎を舞台にする作品が増えてゆく。そこに筆者は、「太陽の沈まない国」英国が戦後になって多くの植民地を手放した影響を読み取る。

 クリスティー作品の題材から英国の変遷を読み取るアプローチはとても興味深く、面白く読んだ。だがそれ以上に、とにかくクリスティーを再読したくなった。特に学生時分、すなわち数十年前に読んだきりの作品は、ぜひ再読したい。読書欲を刺激してくれるという意味でもなかなかの佳品であった。

●定期でお願いしている本が届いた。
『英雄と悪党との狭間で』 A・カーター 論創社
 形而上小説だと。はたして楽しめるのかどうか、少々不安があるが。