累風庵閑日録

本と日常の徒然

『パニック・パーティー』 A・バークリー 原書房

●『パニック・パーティー』 A・バークリー 原書房 読了。

 クルーズ船のトラブルによって、絶海の孤島に置き去りにされた十五人の男女。船が戻ってくるのは二週間後。水や食料は豊富だが、無線機はない。事故のようだが実際は、裏にクルーズ主催者のとある企みが隠されていた。やがて主催者の死体が島の近くの海を漂っているのが発見される。どうやら崖から落ちたらしい。転落事故か、それとも誰かに突き落とされたのか。これだけならばいわゆる「嵐の山荘」タイプの物語のようだが、実際はかなり違う。最初のページにある序文的文章が意味深長である。本書は推理のみを主題とした小説とは正反対の作品だそうで。

 一緒にいるうちの誰かが殺人者かもしれないのだ。最初のうちは冷静で礼儀正しかった人々が、閉鎖環境のなかで緊張を強いられ、次第に理性を失ってゆく。その様が各人各様に丁寧に描かれる。ちょっとしたことでパニックを起こし泣き叫ぶ。誰それが殺人者だと決めつけて罵る。アルコールに耽溺して狂気を募らせる。どうやら本書では、危機に際しての人間の弱さ、哀しさ、愚かさがひとつの主題となっているようだ。

 こういった人間観察も、皮肉で気が利いている結末も、バークリーらしいと思う。序文にあるように本格ミステリとしては心細いが、次第に高まってゆく不穏な空気がもたらす緊迫感は上々であった。