●『服用禁止』 A・バークリー 原書房 読了。
人物描写に力を注いだバークリーらしく、好悪両面で個性的な人々が活き活きと描かれている。たとえば体の不調と泣き言とを並べたてるばかりの役立たずアンジェラ。知的で冷静で有能なローナ。周囲の思惑や迷惑をものともせず自分の考えをごり押しするシリル。ろくろく料理ができないにもかかわらず自らを完璧な料理人と言い張るマリア。終盤に登場する(伏字)もまた、わずかしか出てこないにもかかわらず記憶に残るキャラクターである。
殺すほど憎んでいる者がいそうにない好人物の被害者ジョン。だが物語が進むしたがって、次第に彼の裏の顔が明らかになってゆくのも人物描写の面白さである。犯人が(伏字)という言動も出色。それ以外にも、伏線として描かれている、犯人の心情がふと漏れ出るシーンが情感豊かである。
事件としても緻密な構成と多くの伏線とから、ミステリを読む喜びが得られて上出来の作品であった。