累風庵閑日録

本と日常の徒然

『欲得ずくの殺人』 H・ライリー 論創社

●『欲得ずくの殺人』 H・ライリー 論創社 読了。

 殺人事件を扱ったロマンス小説、あるいはロマンスで味付けした軽ミステリ。ミステリ風味もロマンス風味も濃くはない。二百ページしかない分量だし、総じてとにかく薄味であった。ただ、薄味なのは私の感受性の問題である。著者はHIBK派として人気があった多作家だというから、私が受け止めることができていない豊潤な味があるはずだ。

 論創海外ミステリのレーベルで出るからには、ミステリを期待する。実際、中盤で殺人計画の全貌が見えてくる辺りはちょいといい感じ。だが、全体としては平熱のまま読み進めた。(伏字)といった伏線めいた記述がちらほらあるものの、途中であっさり、なんでもなかったのだと判明する。あれれれと思う。真相が読者に示される部分は、テレビの二時間サスペンスドラマのようだ。巻末の解説を読んで、なるほどと思う。ライリーがデビューした叢書にはHIBK派の作品が多く含まれていて、その理由のひとつとしては「トリックの創意工夫なしに大量生産できる」からだそうで。

 個人的に一番驚いたのは、同様に巻末解説の記述であった。ライリーの三十七年の作品「File on Rufus Ray」が、雑誌「新青年」に抄訳で載ったという。訳題は「ルーファス・レイ事件簿」だ。これって、デニス・ホイートリー「マイアミ沖殺人事件」と同様の捜査ファイルミステリだというので興味を持って、十四年前にコピーを手に入れていたやつではないか。まだ読んでないけれども。

●雑誌を買う。
『建築知識 12月号』 エクスナレッジ
 木魚庵氏の今回のお題は「幽霊座」だ。